Georgism

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京大本Ⅰ-6

京大本Ⅰ-6を解いてみました

見出しはQuestionsに対応しています。

 

第1 (1)(a)
XはYに対し履行遅滞に基づく損害賠償請求権(415条)を主張するものと考えることができる。
履行遅滞に基づく損害賠償請求権の要件は、ⅰ契約の締結及び履行期の定めⅱ履行期を徒過したことⅲ履行しないことが違法であることⅳ損害の発生Ⅴ因果関係の5つである。
したがって、以上の5つの要件が備わる必要がある。


第2 (1)(b) 
1,Yの、F社の主力工場が大火災をおこしたため、乙が高額でないと調達できなかったとの主張は、債務者に帰責事由がないとの主張であると考えられる。確かに、F社の工場の火災はYの責めに帰すべき事由ではないとも考えられるが、これを理由にXの請求を拒絶できるか。
2,そもそも、帰責事由がない場合とはどのような場合か。
民法は、履行不能については「債務者の責に帰すべき事由」を要求しているが(415条後段,543条)、履行遅滞にはこれを要求していない(415条前段,541条)。しかし、過失責任の原則、及び、履行不能履行遅滞とを区別して取り扱う根拠はないため、履行遅滞についても債務者の帰責事由を必要とすると考えるべきである。
そうであるならば、帰責事由とは、債務者の故意・過失又は信義則上これと同視すべき事由をいうと考えることができる。ここでの「故意」とは、債務不履行という違法な結果が発生することを知りながら、あえて発生させたことである。一方、「過失」とは、相当の注意を尽くせば債務不履行を知り得たにもかかわらず、不注意でその発生を知らなかつたことないし回避しなかったことをいう。そして、この債務者の注意義務の程度と内容は、契約の種類,債務者の地位・職業,契約実現に対する当事者の期待の程度,契約締結後に生じた情況等によって、具体的事案に則して判断する。
3,本問において、乙は2003年10月20日のF社の工場の火災によって、市場価格が4億円にまで高騰していた。しかし、乙の価格は高騰していたものの、4億円を出せば手に入るものであり、F社の工場の火災は、債務の本旨に従った履行に努力してもなお不履行に陥ってしまう程の事由ではない。
確かに、契約締結当時は乙の代金が2億円に設定されていたことから、市場価格は2億円以下であったと考えられ、それが倍の4億円になった負担を債務者に負わせることは酷であると考えることもできる。
しかし、これは一般に仲卸業者であれば負うべき危険の範疇であり、実際に手に入ることを考慮すれば、履行が可能であったにもかかわらず、これをあえてしなかったと評価するのが妥当である。
したがって、帰責事由の不存在とはいえない。
4,以上より、Yの当該主張ではXの請求を拒絶できない。

第3 (1)(c)
1,Yの当該主張はいわゆる不安の抗弁権を主張するものと考えることができるが、これは認められるか。
2,そもそも、不安の抗弁権とはどのような抗弁権か。
 不安の抗弁権とは、双務契約において、自己の債務が先履行となっている場合に、相手方から対価を受けられないおそれが生じたことを理由に、同時履行の抗弁権と同質の効果を得られるとする抗弁である。
 これが認められるためには、対価を受けることができないおそれのある具体的な徴憑が存在する必要がある。
3,本問では、確かに、造船業界が不況になっており、Xの取引先のM銀行が手を引くとの噂が流れていたという事実がある。
 しかし、対価を受けることができないおそれのある具体的な徴憑があるといえるためには、破産や民事再生などの手続に実際に付されていることまでは要求しないものの、手形の不渡りや取引の停止などの、いわゆる事実上の倒産状態にあるといったような事実が要求されると考えるべきであるが、本問ではまだ噂にとどまっている。
このような事実では、不安の抗弁権が認められるほど事実が具体性を帯びていると評価することはできない。
4,したがって、不安の抗弁権は認められない。

第4 (2)(a)(ア)
1,以下、損害を検討するにあたり、まず「損害」とは何かを検討する。
 「損害」とは、債務不履行がないと仮定した場合の債権者の利益状態と、債務不履行があったために現在置かれている利益状態の差を金額であらわしたものである(416条参照)。
 416条1項は、通常損害を規定し、2項は特別損害を規定している。特別損害は、当事者の予見可能性を必要とし、判断基準は債務不履行時を基準として考える。
2,XがZに支払った遅延損害金1億円
 XがZに支払った1億円は、履行遅滞から生じる通常損害とはいえない。
 しかし、仮にYがXとZとの間の契約内容について知っていた場合には、予見可能性があるため、特別損害として認められる

第5 (2)(a)(イ)
1,Zに実際に生じた損害が5000万円を超えないとした場合はどうなるか。
 損害賠償の特約に基づきXが1億円を支払ったことを前提に考える場合、当該特約についてYの予見可能性がどの程度あるのかによって結論が異なる。
2,XZ間の契約内容を事前に知らされていたとき
 XZ間の契約内容を事前に知らされていた場合には、YにはXが遅延賠償として1日100万円支払うことが予見できていたと考えることができ、この場合には、実際にZに生じた損害を検討することなく、実際に特約に基づいてXが支払った金額を特別損害と考えることができる。
3,XZ間の契約内容については事前に知らされていなかった場合
(1)業界内で遅延賠償に関する特約が締結されることが通例となっている場合
 業界内で遅延賠償に関する特約が締結されることが通例となっている場合には、XZ間の特約の内容が通例の範囲内であるといえる場合には、Yに予見可能性があると考えられるため、実際に特約にしたがってXが支払った金額が特別損害となる。
(2)業界内で遅延賠償に関する特約が締結されることが通例ではない場合
 業界内で遅延賠償に関する特約が締結されることが通例ではない場合には、ZがXY間の契約自体は知らされていると考えることができる場合と、それさえも知らされていない場合とに分けて考えることができる。
 前者の場合には、Yには、XはZに対して遅滞に関する損害賠償が発生することは予見できたといえるため、Zに実際に生じた損害につき、特別損害に該当すると考えることができる。
 後者の場合には、予見可能性がないため特別損害には含まれない。

第6 (2)(b)
1,(ア)
 通常損害にあたるといえるため、4億円は認められる。
2,(イ)
 相場よりも高い2億円についても通常損害といえるか。
 転売利益は一般に通常損害であると考えることができる。そして、通常損害とは、相当因果関係の範囲にあるといえる損害をいう。
 通常損害を検討するにあたっては、特別損害とは異なり、債務者の予見可能性を前提とはしない。
 本問において、確かに、XZ間の契約内容について、Yがどの程度把握していたかは不明である。しかし、優先して建造することで相場よりも2億円高く設定されるということは、社会通念上よくある事情であると考えられ、履行遅滞との相当因果関係が認められるというべきである。
 したがって、通常損害に含まれ、この場合においても請求できる。

第7 (2)(c)
1,填補賠償と考える場合
 当該損害を填補賠償と考える場合、仮に2004年2月1日に契約が解除されていることを前提とするならば、Yの調達義務は消滅している。
 そうすると、引渡しに関する損害賠償義務は負わないため、填補賠償は成し得ない。
2,特別損害と考える場合
 特別損害と考える場合には、Yの予見可能性が問題となる。
 YはXがいつどこで誰といくらで調達するかということは予見することができない。したがって、特別損害に含めることはできない。

第8 (2)(d)
1,営業損害
 以下に検討する損害は、いわゆる営業損害である。
 商人間の取引においては、目的物が営業に利用されることが前提となって契約が締結されていると考えることができるため、営業損害は、相当因果関係の範囲内で通常損害に該当すると考えるべきである。
2,(ア)
(1) それでは、1年分を請求できるか。
(2) 少なくとも、契約が解除された2004年2月1日までは、Yに引渡義務があったといえ、履行遅滞の責任が生じていると考えることができるため、その期間に該当する割合においては通常損害であるとみることができる。
 一方で、その後の営業ができないことについては、拡大損害であると考えるべきであるため、相当因果関係のある範囲で、予見可能性が認められる限度において請求できるものと考えるべきである。
(3) 当該特別損害が認められるためには、前提として、YがXの船台が1台しかないことを知っている必要がある。その上で、甲を仕上げるためにどのくらいの期間を要するかを予見可能であるといえる場合には、その範囲で損害が認められる。
3,(イ)
 経常利益とは、営業利益に営業外利益及び損を加えた利益をいう。これについては第8,2と同様に考えることができる。

第9 (2)(e)
1,信用失墜とは、履行遅滞とは相当因果関係はないと考えることができる。
2,仮に、相当因果関係を有すると考える場合であっても、拡大損害であるため、特別損害にあたり、予見可能性が必要となる。
 債務不履行時に、造船業界が不況であったという事実やM銀行が手を引くという噂が確実性のあるものであると評価できれば予見可能性は肯定できる。
 その場合には、特別損害となる。

第10 (3)
Yが賠償額の減額を主張するには、過失相殺を主張することが考えられる。特に、拡大損害については、Yに予見可能性があったとしても、Xが損害の拡大を防止することができたといえる時期以降の損害については、損害軽減義務違反として過失相殺がなされるべきである。本問において、乙に関して、独占交渉権があったといった事情がなければ、他から調達することは可能であり、過失相殺が認められるといえる。
                                     以上

 

 

京大本は設問が細かくて長いですね...

 

そして本当は履行遅滞の該当性とか、事情変更の原則とかの問題も考えられるとは思うのですが、設問に対応させると出てこないので書きませんでした。

 

ではまた

※個人の見解です!